モバイル・ワイヤレスをはじめとしたICT技術の総合的調査を行う株式会社サイバー創研(本社:東京都港区、代表取締役:佐藤博彦)は、3GPPの5G標準必須特許(5G-SEP)の宣言状況、5G-SEPの規格整合率や5G実現特許などの5G標準化活動状況について、企業や技術・サービスに注目して調査・分析を行っています。

今回の第6版の調査報告では、1年前の前回調査に引き続き、5G-SEP推定保有数[i]、5G-SEP宣言特許[ii]、5G実現特許[iii]、5G標準化寄書[iv]の4種について、直近状況の調査・分析を行いました。

 

今回の調査では、5Gの無線基盤の標準化はほぼ安定し実装技術[1]が中心になってきたこと、及び6Gに向けたと考えられる動きが見えてきました。概要は以下の通りです。

 

◆5Gは無線機能の実装技術へシフト

5Gの無線基盤の標準化関連では、標準仕様を支える5G-SEPの推定保有数は、5G-SEP宣言特許の判定基準の見直しがあり、2万件となっています。

5GのSEPに加え実装も支える5G実現特許は、昨年度調査時の1.3倍と大きく増加し、8万件を超えています。SEPと実装特許の件数比率でみると、今回調査ではSEP1件に対し実装特許3件と、昨年度より実装特許の比率が1.5倍に増えています。

また、標準必須整合性の評価対象である5G-SEP宣言特許では、TS38系(5G-RAN)への宣言特許が昨年度より約9,000件増えています。TS38系の主要な規格に加え、1,000件以上のSEP宣言特許がある規格は前回より4規格増え19規格となっています。これに対し、TS23系(アーキテクチャ)、TS24 系(呼制御等)は4規格と変わっていません。標準規格の増強は無線系のインターフェース仕様が中心となってきています。

これらの動きから、標準化はほぼ安定し、特許出願はシステムを実現する実装特許に移行してきたと見て取れます。

 

◆新機能は6Gアーキテクチャを期待

5Gでの新たな技術課題で6Gへの動きが、3つの調査で見て取れます。

1つ目の5G実現特許の調査では、5G実現特許の出願時期の分布から、近年出願が大きく増えている技術が抽出できます。

NTN[2]、AI/ML[3]、XR(メタバース)[4]、MEC[5]などの技術です。

これらは、ネットワークトラヒックに大きな変化を与え、ネットワーク構成に改善を必要とする可能性がある技術です。

2つ目の5G標準化寄書の調査では、Rel-18ではAI/ML、Sidelink、NTNなどへの寄書提案が積極的に行われています。更に、Rel-19では、社会全体の省電力を支援するために無線ネットワークが具備すべき標準化目標や、ターゲット産業/アプリケーションを中心に据えたセンシング関連の標準化目標が提案されています。

3つ目の5G-SEP宣言特許の調査では、上述の動きを受けた形で、AI/MLやNTNを対象とした研究規格(TR)が既に成立していることが確認できました。

これらの調査結果は、4Gから5Gへとネットワークアーキテクチャの変更を必要とした4G-Advanceの時代の動きと類似するものがあり、6Gに向けた技術開発の予兆と思われます。

 

なお、今回の第6版でも前回に引き続き、調査報告書の販売に加え、種々の動きを推定できる特許グループのリスト販売や、お客様が興味をお持ちの視点で分析を行うカスタマイズ分析も行います。これにより、企業や技術区分など、的を絞った効率的で具体的な特許の内容の確認をご支援いたします。

対象は、5G-SEP推定保有数 、5G-SEP宣言特許 、5G実現特許 、5G標準化寄書の4種全てです。

【調査結果のポイント】
  • 標準規格を支える5G-SEP推定保有数

図1に5G-SEP推定保有比率を示します。

SEP宣言は、各社が独自の判断で宣言できます。このため、宣言された5G-SEPが、必ずしも5G規格の実現に必須の5G-SEPとは限らないため、客観的な規格整合判断が必要です。本調査では、3GPPが5G規格と定めた規格に宣言した各社の登録特許から、企業毎の公平性を保って各社ごとに登録特許の10%以上を目標に抽出し、宣言規格の仕様と特許の請求項を比較評価し、一致している特許を規格整合特許としました。

今回調査では、10件以上の特許を判定した企業は40社あり、規格整合率の平均は38%と、2020年10月初回調査の平均33%から5%上昇しています。

調査件数の多い上位20社の内18社が規格整合率を高めており、標準必須特許の宣言精度は全体的に向上してきています。

規格整合率の上位3社は1位NTT DOCOMO、Kyocera、3位Fujitsuと、日本勢が頑張っています。

図 1 標準規格を支える5G-SEPの推定保有比率

 

今回調査でも、5G-SEP推定保有数上位の企業の順位の入れ替わりがありました。

1位Huawei、2位Samsungは変わらず、3位がNTT DOCOMOになりました。

下位では、Apple、Xiaomiが15位以内にランクインしてきました。

日本企業では、前回と同じくNTT DOCOMO、Sharp、NECの3社が入っています。

 

  • 5Gシステムのための5G実現特許

5G実現特許の上位企業の出願推移を図2に示します。

昨年度からは大幅に増加し、8万件を超えてきました。5G-SEP推定保有数の約2万件の約4倍となっています。この結果はシステム化を支える実装特許の増加を意味しており、今後の変化が注目されます。

図 2 5G実現特許の上位企業の出願推移

 

5G実現特許の出願を支えている上位出願人は、3つのタイプに分かれてきました。

1つめのタイプは、大幅な特許出願を始めたQualcommです。2年連続3,000件を超える特許出願を行い、シェアを大きく伸ばしています。

一方、出願件数が減少に転じている2つめのタイプの企業が出てきました。無線領域以外の技術への出願を増やしている可能性があります。

3つめのタイプは引き続き出願件数を増やしている企業で、対象技術からさらに以下の2つに分かれてきています。

無線系の技術を増加させている企業は、5Gをさらに洗練させようとしています。

ネットワーク系の技術を増加させている企業は、5Gの活用に注力していると思われます。

 

  • 5Gシステムの実現で重要な技術の世代交代

5Gシステムの実現で重要な技術は、約60種あります。

無線系、ネットワーク系、システム・サービス系の分類で調査をしていますが、近年はシステム・サービス系の技術が項目数、出願件数とも増えています。

5G-Advance世代(Rel-18以降:2020年以降)に入ってからの特許出願件数の比率が高い技術を、5G実現特許の技術の出願時期の分布(図3)で見てみると、XR、NPN、NTN、AI/ML、MECなどのシステム・サービス系の分類の技術となっています。

これらの技術は、ネットワークのトラヒックに大きな影響を与える可能性があり、ネットワーク構造やトラヒックの流量制御などの観点で、アーキテクチャの改善が必要となる恐れがあります。

一方、5G-Advance世代の比率が低い技術は、MIMO、FEC、OFDM、非直交アクセス制御など、5Gの立ち上がり期に注目された技術となっています。

図 3 5Gシステムの実現で重要な技術の特許出願年の分布

 

調査報告書の目次構成はこちらに掲載しています。

 

[1] 5G実装技術はシステム化等の技術で5G実現技術の一翼を担い、5G-SEP技術と合わせて5Gを実現しています。それぞれ対応する特許が存在します。

[2] Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク

[3] Artificial Intelligence/Machine Learning:人工知能/機械学習

[4] X Reality/Extended Reality:クロス・リアリティ

[5] Multi-access Edge Computing:マルチアクセス・エッジコンピューティング

[i] 5G-SEP推定保有数は、各社の5G-SEP宣言特許数に、各社の規格整合率をかけ、各社の推定保有数を算出し、集計した件数です。公平性を保つための判定対象特許の抽出方法は、(1)項を参照ください。

[ii] 5G-SEP宣言特許は、各企業が標準規格の仕様に関する特許として、各社の独自判断で宣言した特許です。どの規格に対する宣言か、いつ宣言したのか、特許の保有者や宣言人などの公開情報が分析対象となります。

調査対象:ETSIのSEP一覧リスト

https://www.etsi.org/deliver/etsi_sr/000300_000399/000314/02.31.01_60/

分析単位:INPADOCファミリーベース

調査対象リスト収集時期:2023年11月公開分

[iii] 5G実現特許は、5G標準規格制定に資する特許(5G-SEP)と、SEPではないが標準規格を実施するために有用な特許(各装置で実現処理を行う実装特許など)をできるだけ網羅して収集・抽出を行った特許群です。5Gを特徴付ける技術分類に着目し、5Gの要求条件を満たす技術と判断できる特許だけを抽出し、分析対象としています。

なお、第3版調査報告書では、「5G必須特許」と呼称していましたが、5G標準必須特許(5G-SEP)と混同を招く恐れがあるため、変更しています。

調査対象 : 5Gならではの19の技術領域の特許から、検索システム:Derwent Innovationを用いて抽出した、5Gの実現に有用と判定した特許

検索対象特許:全世界の特許公開公報

分析単位:INPADOCファミリーベース

調査対象期間 : 公報発行日2013年1月1日から2023年9月30日(第5版からの12カ月分を追加)

[iv] 5G標準化寄書は、3GPPの会合に提案された5G規格検討のための寄書です。どの会合への寄書か、どのリリースの寄書か、などの公開情報が分析対象となります

調査対象 : 3GPPのHP

https://www.3gpp.org/specifications-groups/specifications-groups

分析単位:提案単位

調査対象リスト収集時期 : Rel-15以降

リストの集計:2023年12月