5月23日夜(米東部時間)にSpaceX社がFalcon 9で60機もの通信衛星を打ち上げた。これらの衛星は、高度約300km~1,350kmの複数の軌道に展開を計画する低軌道衛星通信システムの先遣隊となる。一回の打ち上げで60機もの商用衛星を軌道投入するのは、極めて異例と言えるが、計画全体の衛星機総数は12,000機と言うから本当に驚くのはこれからだろう。

Space X社の計画に限らず、このところ低軌道(LEO)に大量の衛星を投入して通信サービスを行う計画が一種のブームになっている。こうした衛星網はLEOコンステレーション、数が多いものは特に、LEOメガコンステレーションと呼ばれている。ソフトバンクが10億ドルもの出資を決めたことで有名なOneWebを始め、Telesat(カナダ)、LeoSat(米)などがその代表格だ。

1990年代の衛星通信の状況をご存知の方から見ると、 “いつか来た道か?”と思われるであろう。当時、いくつものLEOコンステレーション計画が勃興したものの、ほとんどが事業化前に消えていった。わずかに生き残ったのがIridium、Globalstar、 Orbcommの3社で、そのいずれもがチャプター11入りを経て現在に至っている。ビル・ゲイツ氏とクレイグ・マッコー氏(AT&Tワイヤレスの前身を築いた携帯電話富豪)の2人がバックについたTeledesic社ですら事業化には至らなかった。

歴史は繰り返すのだろうか?

業界でも見方が分かれている。

懐疑派が挙げる最大の懸念点は必要なコストが莫大なことだ。LEOは、グローバルにサービスを提供するには適したシステムだが、その反面、最低でも数十機の衛星を用意しなければビジネスを開始できない。66機の衛星でサービスするIridiumの事業開始時の設備コストは50億ドルだったそうだ(Wikipedia)。

だが、推進派の着目点の一つが必要コストの低減にある。SpaceXの登場で、打ち上げコストは大幅に低減された。Amazon CEOのベゾス氏率いるBlue Originやブランソン氏のVirgin Orbitの間もなくの打ち上げビジネスへの参入で、さらなるコスト低減が見込まれる。

約650機のコンステレーションを計画するOneWebの衛星は、低コスト化を最大限に意識して設計されている。それでも資金調達した額は34億ドルだそうだ。ベンチャー企業の初期投資額としては大変なものである。

 

それだけの投資をして、なぜ低軌道衛星なのだろうか?

光回線によるブロードバンドネットワークの普及により、そうしたインフラが在ることを前提にして流通、金融、交通システム等が作られている。更に音楽配信やビデオストリーミングなどの新しいサービスが次々と世の中に誕生している。スマホの大多数のアプリもブロードバンドネットワーク無しでは動かない。しかしながら、先進国といえども光回線が使えない地域は残るし、途上国ではなおさら。海上や航空路での需要も増している。アンテナを置けば直ぐに高速な通信回線を利用できる衛星通信は、主要な選択肢である。

そのようななかでLEOが注目される答えの一つが、静止衛星と比較して圧倒的に伝送遅延が短いことにある。

LEO衛星システムの伝送遅延が光ファイバーよりも短くできる言ったら驚かれるだろうか?

詳細な説明は省くが、ファイバー中の光の伝搬速度は真空中の光の速度の2/3程度でしかないのがその理由だ。ご興味のある方はこちらのリンクをどうぞ。

5Gが低遅延特性をうたい文句にするように、LEOコンステレーションが低遅延伝送の需要を新たに掘り起こす可能性もある。

長く衛星通信に携わった者としては、今後のLEOの展開に大いに期待する。

 

大幡浩平:NTT研究所において衛星通信の研究、スカイパーフェクトJSAT社において次世代衛星通信システムの検討、衛星調達に従事。2018.10よりサイバー創研にて勤務。